当院からのメッセージ
「多くのカップルが悩んでいる不妊」
愛し合って一緒になったカップルが、赤ちゃんの誕生を望むのは、自然なことです。しかし、子供が欲しいと願い、「妊娠する」ということに関しては、二人の意思だけではどうにもできません。
不妊はとても身近な存在であるということをご存知でしょうか?今は、10組に1組は不妊症であると言われています。つまり、決して珍しい症状ではないのです。
「もしかして不妊かも?」と人知れず悩んでいても、その基準がわからなければ治療を始めていいのかどうかがわかりません。まずは不妊症とはどんなことかを知っておく必要があります。「不妊」というのをよく知れば、今後の二人のあり方もきっと見えてくるはずです。
不妊症検査や治療には時間と費用がかかるうえ、副作用や多胎妊娠などのリスクが伴うのが現実です。だからこそ、自分の受ける検査や治療がどんなものなのかしっかり理解し、納得して臨むことが大切であると考えます。
盛岡市の今井産婦人科内科クリニックでは、お二人の人生がより良いものになるように、お力添えさせて頂きます。
不妊症について
医学的な不妊症
避妊をせずに性生活を送っている男女が、1年以上妊娠しない状態を「不妊」といいます。日本では6組に1組が不妊の検査や治療を受け、決して珍しいことではありません。2人目が授からない、いわゆる“2人目不妊”に悩む夫婦もいます。
避妊をしないで、赤ちゃんができる割合は、通常結婚1年以内で70~80%、2年以内で80~90%といわれています。ちなみに結婚3年目以降に自然妊娠する率は5%です。
10組に1組は不妊症
もしこの定義に当てはまってもがっかりしないでください。日本では妊娠を望む人のうち、実にその一割が不妊症に悩んでいるとも言われています。「なぜ自分たちだけが?」と悲観せず、真向きに取り組む姿勢が大切です。まずは、不妊に対しての知識をきちんと得ることから始めましょう。
2年を目安に
避妊をせずに自然な性生活をおくっていて、2年経っても妊娠しなければ、クリニックを受診した方がよいかもしれません。女性の年齢が高くなるほど、卵子の状態が衰えていくのはまぎれもない事実です。不妊治療は長引くこともあるため、高齢出産となる危険性もあります。
不妊の原因
不妊に悩む夫婦は増えていると言われています。その原因は多種多様です。かつては不妊症といえば女性の問題とされていましたが、半数近くは男性側にも原因があることが分かってきました。
女性のライフスタイルが変化して晩婚・晩産傾向が進んでいること、不妊症につながる病気(子宮内膜症や、クラミジアをはじめとする性感染)が増えていること、仕事のストレスや過労等による男性不妊などが指摘されています。
また、複数の問題が絡み合っていたり、検査をしても原因がはっきりしないケース(機能性不妊)が1割程度あることが分かっています。
女性側の原因
【排卵障害】
卵子が育ちにくい。排卵されにくい。
(卵巣機能低下、性腺刺激ホルモン分泌障害など)
【卵管障害】
卵管が詰まっている、狭くなっている。
水腫ができている。(卵管癒着、卵管水腫など)
【着床障害】
子宮に問題があり、受精卵が着床しにくい。
(子宮筋腫、子宮奇形など)
【子宮頸管の通過障害】
精子が子宮内に入りにくい。
【子宮内膜症が発生】
子宮の中の内膜組織が子宮を飛び出て、増殖する。
(チョコレート嚢胞)
【免疫性の不妊】
入ってきた精子を異物として認識してしまい、妊娠ができない。
(抗精子抗体など)
男性側の原因
【造精機能障害】
精子の数が少ない(ない)、動きが悪い。
精子を作る「精巣」が十分な機能を果たしていない。
(乏精子症、無精子症など)
副性器(精巣上体、前立腺、精嚢)にトラブルがある。
【精管通過障害】
精子が精管(精子の通り道)を通れず、外に出れない。
【勃起不全:ED】
心理的・身体的な要因でうまく射精ができない。
(勃起障害、逆行性射精など)
双方の原因
【強いストレスがある】
ホルモンの分泌が悪くなったり、無排卵、EDの原因となる。
【極端に痩せている、肥満している】
女性は性腺刺激ホルモンの分泌のバランスが崩れて無排卵に。急激に体重が減少するとホルモンが正常に分泌されなくなり、月経不順や無排卵といったトラブルが起きます。(体重減少性無月経)。逆に急激な体重増加や肥満も危険です。妊娠を望むなら、体重管理はとても重要です。男性は中性脂肪の増加などで血流が悪くなり精子を作れなくなる可能性も高まります。
クラミジア感染症にご注意
今、若い世代に性感染症(STD)が広がっています。性感染症の中で最も拡大しており、また不妊に影響を与えているのは「クラミジア感染症」。
感染すると、子宮頸管から卵管へと炎症が起こり、さらに腹腔膜にまで広がっていきます。その炎症が卵管のつまりや狭窄、着床の阻害などの原因となるのです。
男性の場合は副睾丸炎や前立腺炎を起こし、精子の数や運動に多大な影響を及ぼします。症状が軽いため見逃しやすいのですが、分かった時点で二人一緒に治療する必要があります。
不妊症の検査・治療について
時間とお金をかけ、薬の副作用にも耐えて治療を続けているのになかなか妊娠できないと、「なぜ自分たちだけが」と悲しくなったり、周囲のプレッシャーに押しつぶされそうになったり、夫婦関係がぎくしゃくしたりと、精神的なストレスが大きくなっていきます。
こうしたストレスが原因でますます妊娠が遠のいてしまうケースも少なくありません。不妊症にストレスは大敵。つらい気持ちを心の中にためこまないよう、上手にコントロールしながら治療を続けたいものです。
不妊治療には様々な段階があります。1つの治療を一定期間やってみて、妊娠しなければ次の段階へと「ステップアップ」しながら進むのが不妊治療の一般的な流れです。治療法は不妊の原因別に行われます。原因がいくつかある場合は、治療法を組み合わせて進めて行きます。
医療の進歩により、以前なら諦めざるを得なかった夫婦も、赤ちゃんを授かるチャンスが広がっています。
検査について
不妊の原因を探るのが検査の目的です。検査によって排卵に関するもの、精子に関わるもの、卵管に関わるものなど、その原因が明確になっています。それを基に、当院では治療方針を立てていきます。
まず、問診・尿検査・血液検査・超音波検査等を実施していきます。(ただし、当院では男性は血液検査、精液検査のみで、診察は行っておりません)
内診・触診
医師が生殖器に触れて行う内診・触診検査は、膣や子宮のトラブルについて発育状態やしこりの有無など確認していきます。
検査費用について
治療内容・進行具合によって個人差があり、保険が効かない自費診療の検査が多いため費用も患者様によって異なります。事前にどの程度必要かを確認されたい場合は、一度、当院へご相談頂けると幸いです。
タイミング療法
不妊治療の基本となる治療
タイミング療法とは、排卵日を予測することで、性生活のタイミングを図ることを目的とします。排卵誘発剤を使用する場合(排卵を起こす場合)、また人工授精を試みる場合でも、このタイミング療法が基本的な治療として利用されます。
基礎体温表の利用
妊娠への第一歩、基礎体温の重要性
基礎体温の測定は、不妊治療には欠かせません。
妊娠の可能性があるのは排卵日の前後。その排卵日を予測するために必要なのが、基礎体温の計測と記録です。
基礎体温表から、ホルモンの分泌異常や無排卵などのトラブルが発見されることもありますので、受診の際はこの基礎体温表を持参すると良いでしょう。薬局で婦人体温計を購入すると、通常は基礎体温表がついてきます。体温の記録の他に、その日の体調なども細かく記入しておくことが大切です。
基礎体温で身体のサイクルを把握していきます。今後の治療に関わってくることなので、正しい測り方を覚えておきましょう。朝、目が覚めたら体を動かす前に舌の下に体温計を入れて測ります。正確なデータとなるよう、毎朝同じ時間に測りましょう。
基礎体温を測るポイント
- 専用の「婦人体温計」を枕元に置いておき、目覚めたら身体を起こす前に計る。
- 舌の下で計る。
- 毎日なるべく同じ時間で計る。
- 規則正しい生活を送る。(睡眠不足だと正確な数値が出せない)
- 寝坊や就寝時間の遅れ、体調不良などの記録もつけておく。
各種検査を実施
超音波検査
超音波によって、子宮や卵巣に異常がないかを調べます。排卵日がいつか、排卵が正常に起こっているかなども検査することが出来ます。また、卵胞の大きさを超音波で確認していきます。一般的には、卵胞の直径が20mmを超えると排卵が近いといわれています。
血中排卵ホルモンを測定し、卵胞1個あたり200~300pg/mLぐらいの値になっていれば、成熟していると判断されます。
頸管粘膜検査
排卵が近くなると卵胞ホルモンの働きにより子宮頸管粘液が増えます。頸管粘液は子宮頸管から分泌され、おりものの一部となります。頸管粘液は精子が膣に侵入するのを助ける役割があります。
頸管粘液量が増えることで、粘稠度(ねばりけ)は減少していきます。つまり、子宮内へ精子が侵入しやすい環境が作られるのです。
頸管粘液の性状を調べることで排卵期を予測できます。
尿中LH測定
尿中に排泄されるLHを測定することで排卵を予測します。
(LH:黄体形成ホルモン)
排卵時にはLHの分泌量がピークになります。
診断キットは市販されておりますので、ご自身で購入して、自宅で測定することが可能です。検査で陽性反応が出た場合、24〜48時間後に排卵が起こります。
排卵誘発
排卵誘発剤の使用
- 排卵がない。
- 良好な排卵をしていない。
- 黄体機能不全である。
以上に該当する方は、1~2個の卵胞が発育排卵するように、排卵誘発を行います。排卵誘発剤と呼ばれる飲み薬や注射を使用して卵巣を刺激し、卵子の発育を促すのです。
排卵について
卵巣から排卵される卵子の数は、一般的に毎月1個だけですが、実際にはその1個以外にも多くの卵胞が発育しています。排卵される卵子に選ばれるのは「主席卵胞」と呼ばれる「最も発育の進んだ卵胞」のなかにあったもので、主席卵胞以外は栄養として体に吸収され消失します。
排卵誘発の目的とは、本来消失される主席卵胞以外も「排卵を誘発」するために刺激を加えて発育させることです。そうすれば、良質な卵子を数多く採取することができ、治療の成功率は大きく上昇します。つまり、排卵誘発とは、治療の成功率を大きく左右する要因の一つといえます。
排卵がある場合でも、原因不明不妊や、軽度の男性不妊の場合などに対しても、排卵誘発剤が有効な場合があり、時には人工授精と組み合わせて行われることもあります。内服薬(クロミフェン、セキソビッド)や注射製剤があります。
排卵誘発は、単に「多くの卵子が育てればいい」という訳ではありません。多く育ちすぎると卵巣過剰刺激症候群(OHSS)などの副作用のリスクが高まります。また、多すぎても少なすぎても、質の良い卵子の数は少なくなる傾向があります。
理想的な排卵誘発は、10個前後の粒ぞろいの卵子が育つことです。
人工授精
人工授精という選択肢
人工授精(AIH)とは、受精の場である卵管膨大部に必要十分な精子を届けるため、精製選別した良好精子を子宮腔内に注入する治療法です。タイミング療法での妊娠がうまく行かなかった場合や夫婦間での性交障害がある場合などに選択されます。
人工授精の主な適応として、
- 精液所見(量、数、運動率など)が軽度不良の場合
→ 高度不良な場合、はじめから高度生殖補助医療が勧められます。 - 射精障害・性交障害
→ 膣内への射精が困難である。 - 子宮頸管に問題がある
→ 円錐切除術などの影響で頸管粘液が少ない。 - 原因不明不妊(機能性不妊)
→ 一定期間タイミング療法でも妊娠に至らない。
以上が該当されます。
一般に、人工授精の1回あたりの妊娠率は5~10%程度と報告されています。
- 自然周期ならびに排卵誘発周期での適切な卵胞管理によるタイミング決定
- 排卵誘発法(クロミフェン、セキソビッド)の効果的な適用
- 充分な黄体補充ならびに賦活化によるところが大きい
人工授精そのものの技術のみならず、以上のような要素が合わさって妊娠率が決定すると考えられています。
人工授精の手順
排卵日を測定・排卵日の決定
不妊症の原因によっては、自然の月経周期(排卵誘発剤を使用しない周期)で人工授精をおこなう場合と、排卵誘発剤を使用した周期で人工授精をおこなう場合があります。どちらの場合も実施するタイミングが重要となります。
いつ排卵するかを予測すること、あるいはいつ排卵させるかを決めるため、経膣超音波で卵巣の状態を観察したり、尿中に出る「LH」というホルモンを検出したりすることで排卵日を予測し、これに基づいて人工授精の実施日を決定します。
人工授精の実施日が決まったら、当日朝、自宅で精液を採取したものを持って来院ください。
精液の処理・子宮内への注入
ご主人に採取していただいた精液を、精子や母体に安全無害な専用液および精子洗浄液にて洗浄・濃縮し、元気の良い精子を集めます。選別した精子を柔らかいチューブで子宮内腔に注入します。
受精・着床後は、自然妊娠と全く同じです。排卵日の推定は、タイミング療法と同じであり、基礎体温、頸管粘液性状、超音波による卵胞径計測、尿中LH、血中LH、E2測定などを参考に決定します。