当院からのメッセージ
世界一長寿となった日本人女性。平成25年、厚生労働省調査による日本人女性の平均寿命は『86.61歳』という結果でした。これはとても誇らしい数字であると感じます。
一方では、この長い人生を自分らしく健康に過ごすための知識が、私たちには求められています。特に私たちが目を向けなくてはいけないのは、セカンドライフといわれる第二の人生(閉経後に続く30余年の長い人生)を、あなたらしく、どんな人生にするのかということです。閉経をはさんだ10年間の更年期は、セカンドライフの通過点であり、女性は様々な身体の変化を感じる時期でもあります。
「更年期との上手な付き合い方が、その後の人生を作ります」
全ての女性に平等に訪れる更年期。でも、もちろん誰もが同じような迎え方をするわけではありません。人それぞれ、様々な形で体感することになる更年期について、正しい知識を得ることは、あなたが「あなた自身の更年期」と上手に付き合うためのヒントになります。
約30年間、あなたは人生の残りの約1/3をどう過ごしたいですか?
盛岡市の今井産婦人科内科クリニックでは、あなたがあなたらしく、健康で素敵なセカンドライフを送るために、お力添えさせて頂きます。
更年期に起こりやすい症状
症状や感じ方は人それぞれですが、女性が最初に感じることは、月経(生理)の変化です。今までと比べて月経周期が短くなったり、月経日数や月経量が減ったり、また、月経が2〜3カ月に一度になるなど「身体の変化」を感じることが多くなります。
身体に表れる症状
- めまいや立ちくらみ
- 頭痛・肩こりの症状
- 倦怠感や食欲不振
- 日常的に動悸があり、夜は寝付けない
- 下痢や頻尿
- 手足の痺れ、震え
- ほてり・多汗
以上のようないわゆる不定愁訴と呼ばれる症状です。
更年期障害は、「ストレスや自律神経のバランスが崩れる」という特徴があります。
症状として、生理前以外にも、主にホルモンバランスの乱れが影響してしまうことで、脳への血液がうまく行き届かなくなってしまうことが分かっており、頭痛などの症状が起きやすくなるのもそのためと言われています。
自律神経が乱れると胃腸の作用へ悪影響が与えられます。食欲不振や消化不全、吐き気を発症することがあります。
また、吐き気はストレスとも関係しておりますので、心理的な負担によって症状が増幅されることが分かっています。
精神面に表れる症状
- 一人でいるときに不安感が強くなる。
- やる気が起きず、だるくなる。
- 些細なことで落ち込みやすくなる。
- 無性にイライラすることが増える。
- 怒りやすくなり、八つ当たりするようになる。
以上のような精神状態に陥りやすくなります。
更年期障害になると、気持ちを穏やかに保とうとする働きをもつホルモン「エストロゲン」が不足します。また、それらの症状が重い(または、長く続く)という方は、注意が必要です。
更年期障害が原因と考えていた「うつ」のような状態でも、身体表現性障害(仮面うつ病)として、体調不良に現れてしまう方も少なくありません。不安や悩みが出やすくなる身体表現性障害をはじめ、更年期障害時には、情緒不安定・うつ病 ・ヒステリーなどになりやすいと言われています。
更年期障害の原因
エストロゲンと共に変化する女性の身体
女性の身体は、一生を通じて女性ホルモンである卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲストーゲン)の影響を受けています。特にエストロゲンは、女性のライフステージによって分泌量が大きく変化します。
エストロゲンというホルモンは、女性らしい身体を作るためにとても大切な役割を果たします。排卵や月経などを起こすために必要とされるホルモンであり、18歳〜40歳頃に最も盛んに分泌されることが分かっています。
上記のグラフを見て頂くと分かる通り、40歳を超えると分泌量が急激に減少します。(閉経を迎える前後で分泌量が激減) しかし、更年期に差し掛かるあたりでも、エストロゲンを分泌させるための視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモンが分泌され、正常に卵巣の機能が働いていればエストロゲンは分泌されます。
閉経とは?
月経が永久的に停止することを「閉経」といいます。具体的には、1年間月経がないことを確認して初めて閉経したといえます。この場合は、最後の月経があった時点の年齢が閉経年齢になります。
女性は思春期になると、エストロゲンの分泌が高まり初経(初潮)を迎え、性成熟期には安定し、妊娠・出産に適した時期となります。その後、更年期になると分泌が減り、50歳前後で閉経を迎えるとともに、急激に低下します。
閉経をはさんだ更年期に起こる心身のさまざまな不調「更年期障害」は、主にエストロゲンの欠乏によるものです。
エストロゲンの欠乏が更年期障害の原因
老年期にかけてエストロゲンの欠乏が続いていると、
- 高脂血症(脂質異常症)
- 動脈硬化などの生活習慣病
- 骨粗しょう症
- 認知症
以上のように、その後の老年期の健康を脅かす疾患のリスクが高まるといわれています。
更年期は心身ともに大きな曲がり角であり、この時期の過ごし方はとても大切なものです。また、エストロゲンは生殖機能以外にもあらゆる器官に影響を及ぼします。
- 心血管系
- 自律神経系
- 脳機能
- 皮膚代謝
- 脂質代謝
- 骨代謝
以上のような女性の身体の様々な器官に作用しており、エストロゲンが欠乏するとこれらの器官が今までどおり機能できなくなるのです。これが不調の原因です。
身体の変化に、耳を傾けることが大切
これらの不調は環境や心理状態にも関係します。よって、感じ方や 症状の種類、症状を感じる年齢などは女性ひとりひとり、異なってきます。まずは、あなた自身が身体のサインに耳をすませて、自分に起きていることを知ることが大切です。
「身体の変化が、更年期によくみられる症状である」と頭で理解ができているだけで、不安や不調を和らげることができます。だからこそ、更年期以降に起こりやすい「身体の変化」を知っておき、準備をしておくことが大切です。
更年期障害の治療法
検査方法
更年期障害は、人それぞれ、その程度が大きく異なります。医師に症状について正直に、詳しく伝え、適切な診断を受けることが大切です。更年期障害にはいくつかの治療法があります。
日々の習慣を見直しても症状が改善しない場合は、女性の体の専門家である当院のような婦人科や更年期外科に相談してみましょう。
今井産婦人科内科クリニックでは、あなたに合った方法で治療を行います。 問診に加えて、エストロゲンをはじめとするホルモンを含む血液検査、子宮や卵巣の状態をみる超音波検査や子宮がん検診、閉経後の女性に起こりやすいとされる骨粗鬆症のチェックなど、総合的に状態を判断します。生活に支障が出るほどに重症化した場合、治療が必要となります。
パートナードクターとあなたにあった治療法、お薬をみつけましょう。
HRT:ホルモン補充療法
HRT(ホルモン補充療法)とは、Hormone Replacement Therapyの略で、低下したエストロゲンを補う治療法です。
- エストロゲン欠乏によって引き起こる症状
(のぼせ、ほてり、発汗、性交痛など) - 気分の変調や関節痛など更年期以降の様々な症状
以上を改善に導き、幅広い効果が認められることから生活の質の向上にも大きな貢献が期待できます。
漢方薬
身体全体のバランスを整え、「心・身体」を健康にすることを目的とした治療法です。
更年期障害の症状にも効果があります。
加味逍遥散(カミショウヨウサン)
- イライラ
- 不安
- 不眠
- 気分ほてり
桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)
- 頭痛
- めまい
- 肩こり
- のぼせやすい
- 下腹部に痛みがある
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)
- 疲れやすい
- 貧血気味
- 冷え症
以上のように、検査で異常が見つからないが様々な自覚症状があらわれる「不定愁訴」は、漢方薬の得意分野の一つです。
患者様の体質や体力、症状などにより使い分けていきます。
抗うつ剤・安定剤
抑うつ気分は多くの人が更年期に経験する症状ですが、気分の落ち込み、不安感や焦燥感が強い場合は、安定剤や抗うつ剤などの向精神薬も有効です。
HRT
(ホルモン補充治療法)とは
エストロゲンを補う治療法
HRT(ホルモン補充治療法)とは、更年期を迎え、女性の体の中で分泌が低下し、欠乏して行くエストロゲンを薬で補う治療法です。エストロゲンの欠乏により引き起こされた症状を、エストロゲンそのものを補うことにより軽減させる治療法で、原因療法といえます。
エストロゲンを維持することは、老年期に顕在化する病気の予防にも繋がる可能性が高いです。動脈硬化や骨粗しょう症などの病気を防ぐためにも、この治療法は効果的です。
安全にHRT(ホルモン補充治療法)を受けるために
どのような薬にも身体に良い作用(ベネフィット)と良くない作用(リスク)があります。身体への良い作用を働かせるために薬の量を増やせば、リスクも増えるということです。
薬の安全性を高めるためには、高い効果を得ながらリスクを最低限に抑える「最小有効量」つまり、必要最低量の薬を用いることが推奨されています。
HRT(ホルモン補充治療法)の主な効果
HRTは欠乏しているエストロゲンを補うことで、身体全体に良い効果をもたらしてくれます。
- のぼせ、ほてり、発熱などの症状を改善する。
- 性器の萎縮で起こる膣炎や性交通を改善する。
- 骨が溶けだすのを抑え、骨量を維持し、骨粗鬆症を防ぐ。
また、この他にも以下のような作用も認められています。
- 意欲や集中力の低下を回復させ、気分の落ち込みを和らげる。
- 悪玉コレステロールを減らす作用がある。
- 善玉コレステロールを増やし、血管のしなやかさを保ち、動脈硬化症を防ぐ。
- 皮膚のコラーゲンを増やし、肌の潤いを保つ。
HRT(ホルモン補充治療法)を始める前のチェック
大抵の女性はHRTを始めることができます。しかし、身体の状態によって始められない場合がありますので、下記項目にあてはまる人は医師に相談してみましょう。
- 以前に薬を使用して、かゆみ、発疹などのアレルギー症状が出た経験がある。
- 乳がん、子宮体がんなどに罹っている疑いがある。
- 血栓性の疾患に罹っている、または罹っていたことがある。
- 肝障害がある。
- 異常な性器出血がある。
- 心筋梗塞、脳卒中に罹っている、または罹っていたことがある。
- 妊娠している可能性がある、または授乳中である。
- ポルフィリン症で急性発作が起きたことがある。
また、現在、他に薬を服用してる方は、必ず医師にお伝え下さい。
事前検査の種類
あなたにあった薬・方法を選ぶために必要な検査を行います。
問診 | 今の身体の状態や症状を確認 |
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身体測定 | 血液・身長・体重など |
血液検査 | ホルモンやコレステロール、中性脂肪、貧血の有無、肝機能など |
内診・ 細胞診・超音波 |
子宮頸がん、子宮体がん及びその他の婦人科疾患の有無 |
乳房検査 | 乳がんの有無 |
始めるのに適した時期
一般的には、更年期になり症状が出てきた頃に始めます。しかし、健康を維持するという意味では、開始のタイミングはこの限りではありません。
女性の全身を守る働きをしているエストロゲンが減少すると、様々な病気が起こる可能性が高くなります。HRTは若返る治療法ではなく、そのレベルを維持できる治療法です。いつ始めるかによって、どんな状態を維持できるかは変わってきますが、様々な健康を良い状態で維持するためには、早く始める方が良いと考えられます。
定期的に検診を
HRTを続けている間は、症状の改善状態を見るためにも、定期的な検診がとても重要となります。更年期は生活習慣病をはじめ、子宮体がんや卵巣癌、乳がんなどが多くなる年齢です。HRTによって定期検診が習慣になると病気の早期発見と治療につながり、更年期以降のトータルヘルスケアという意味でも大きなメリットとなります。
定期的な検診の習慣が、更年期以降のあなたを守ります。生活の質(QOL : Quality of Life)の向上にも大きな貢献ができますので、しっかりと検診を行いましょう。
HRT(ホルモン補充療法)の
よくあるご質問
周期的投与法と持続的投与法はどう違うのですか?
<周期的投与法>
決められたお薬を決められた期間に毎日使用したり、しなかったり、あるいは休薬したりする方法で、定期的に月経のような出血があります。月経して間もない人に適しています。
<持続的投与法>
決められたお薬を毎日使用する方法で、使用開始後しばらくは不規則な出血が見られますが、時間の経過とともになくなってきます。月経のような出血を望まない人や閉経から数年経っている人に適しています。
飲み忘れ、貼り忘れ、塗り忘れたらどうなりますか?
不正出血(予期せぬ出血)の原因となりますので、忘れないように注意しましょう。また、エストロゲンの補充が止まりますので、忘れてしばらくすると、改善していた症状が戻りますが、再開すれば、また症状は改善します。
他の薬は飲んでもいいのですか?
風邪薬、頭痛薬、便秘薬、抗アレルギー剤、漢方薬などの併用は問題ないとされています。これらの薬を含め、服用している薬がある場合は、必ず医師に伝えましょう。
閉経してから数年経ってからでも始められますか?
海外の報告では、50代からのホルモン補充療法は動脈硬化を抑え、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞など)を予防することが示されています。逆に60歳以上で開始した場合は、かえって増加する可能性が報告されています。そのため、「早期に開始した方が良い」とされています。それ以外の効果やリスクはほぼ同じであり、どの年代で始めても、膣萎縮や骨粗しょう症を予防・改善することが出来ます。
いつ止めればいいのでしょうか?
更年期の症状を改善するためのホルモン補充療法であれば、症状が改善し更年期が過ぎればいつでも止められます。しかし、止めたあとにまた症状が戻る場合もあります。また、ホルモン補充療法を始めてから体調が良く、そのまま続ける人も多いです。長期の場合は、定期的に検診を受け医師と良く相談しながら、続けていきましょう。
低用量ピルとの違いはなんですか?
閉経後のホルモン補充治療法にはHRT製剤(ホルモン製剤)を用いています。欠乏したエストロゲンを補うホルモン製剤と、避妊のために排卵を抑えるピルでは目的が違うので、薬に含まれるホルモンの種類や量が違います。
タバコは吸っても良いのでしょうか?
タバコは乳がんをはじめ、様々な病気のリスクになるといわれ、加齢と共ににそのリスクは上昇します。ホルモン補充療法の開始をきっかけに、禁煙されることをお勧め致します。
副作用はありますか?
HRTを始めた頃に、下記のような症状を感じることがあります。ほとんど症状は、続けているうちに消失したり、薬を変えることで治ります。
※不規則な出血 ※乳房の張りや痛み
※腹部の張り ※むくみ
など
※症状の発現や治まり具合には個人差があります。
長期の使用で気をつけることはありますか?
長期にHRTを続ける場合には、いくつか気をつけることがあります。定期的に検診を受け、医師と良く相談しながら続けましょう。
血栓症
HRTを行なっていない人と比べると、肥満の人や高齢者では、少し増えるといわれています。
脳卒中
HRTを行なっていない人と比べると、高血圧の人や、薬に含まれるエストロゲンの量が多い場合は、少し増えるといわれています。
心筋梗塞
HRTを始めた時期が、60歳未満であり閉経10年以内であれば増加は認められていません。
乳がんのリスクはありますか?
「HRT」と聞くと、乳がんを心配される人も多いと思います。海外のデータによると、エストロゲンと黄体ホルモンを併用したHRTを5年間以上続けた場合は、乳がんになるリスクはわずかではありますが、上昇するといわれています。
具体的には1年間で乳がんになるのは、HRTを行なっていない人では10000人中30人、HRTを行なった人では10000人中38人であり、HRTを中止した後は、両者には差はみられなくなりました。逆に言うと、5年以内では乳がんの増加は認められていないということです。また、エストロゲン単独でのHRTでは、乳がんの明らかな増加は認められていません。
しかし、昔に比べて近年は、日本においても乳がんになる女性が増え続けています。HRTを行っている・行っていないに関わらず定期的に検診を受け早期発見、早期治療することが大切です。
乳がんになるリスクと考えられている主な要因
乳腺疾患(異型過形成)の 経験がある |
3.67倍 |
---|---|
出産経験が無い (出産経験がある女性と比較) |
2.23倍 |
乳がんになった家族 (親、姉妹、子)がいる |
2.10倍 |
糖尿病に罹ったことがある (糖尿病に罹った ことがない女性と比較) |
1.27倍 |
閉経後にエストロゲンと 黄体ホルモンを 併用したHRTを行った |
1.26倍 |
閉経後女性でBMIが 2(kg/m2) 増えた |
1.03倍 |
<解説>
数値はリスク比、オッズ比から算出。1より大きい場合はリスクが高くなり、小さい場合はリスクが減少する。︎エストロゲン単独のHRTにおけるリスクは明確になっていません。
更年期を迎えたら
心がけること
更年期障害の対処法・予防について
身体に様々な変化が訪れる更年期。もちろん、ネガティブなことばかりではありません。今まで自分らしい生活を送ってきたあなたが、あなたらしい歳の重ね方を考える準備期間でもあります。
更年期を迎えたら、健康的な生活を意識し、日々の習慣を見直してみることをお勧めします。
規則正しい生活を行う
身体の負担を少しでも減らし、規則正しい生活をおくることが、更年期前の生理の時期に一番大切なことです。また、バランスの良い食事を摂ることはとても大切です。生活習慣病や骨粗しょう症が気になり始める更年期からは、コレステロールや塩分を控え、ビタミン、ミネラル、カルシウムの豊富な食生活を心がけましょう。
体を冷やすことを避ける
卵巣機能の低下を招くので、生理中に体を冷やすことは避けましょう。更年期前の生理不順の時期には特に注意をして、生理中には腰を温めるようにすると生理の負担が少なくなり、血行も良くなります。
意識をして身体を休める
疲れがたまりやすくなっているので、生理の時には意識をして体を休めることも大切です。無理をして疲労を蓄積させてしまうと、更年期症状が重くなる原因となるので、注意が必要です。
趣味に没頭できる時間を持つ
いろいろな趣味を見つけて、精神的に楽な状況を作ることが大切です。リラックス時間や、趣味に没頭できる時間を持つことで更年期障害の症状を気にしすぎずに過ごせます。
適度な運動も効果的です。ウォーキングやストレッチなどを習慣づけましょう。血行が良くなり肩こりや腰痛などの効果があるほか、不眠やストレス解消にも役立ちます。また、運動は血圧やコレステロールを下げる働きもあります。
行動療法
どういった場面で、ホットフラッシュ(多汗・のぼせ・ほてり)や発汗、痛みなどが起こるかを覚え、そのような状況を避けるように行動する方法が有効です。